記事を書き始めて10回目。
一区切りとして書きつつ、まだ構想しながら書き始めていない「扁桃と瘀血(肺と肝)」「気のイメージ」「血と消化器」「重力と炎症」「揺らぐとは」「発酵と腐敗」「鍼はアースなのだろうか?」「栄養学と細胞」など、色々な視点から自分と向き合う機会になっていただけたらと思います。
さて、ここから本題です。
以前、NYに行ったとき。
そこでお会いした上野さんに「コロナ禍だから自宅で出来るツボ講座をInstagramでやったら?」とメッセージをいただいた話。
すばらしい案だ!
と思い続けてみた数日間。
けどツボは知れば知るほど奥が深くて、浅いことを伝えると誰が発信しても変わりないと思ってしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが直ぐにやめてしまいました。
なぜなら、個別性に特徴がある東洋医学を大衆に向けてしまうと東洋医学の良さが失われてしまうからです。
この記事もきっと多くの人には伝わらないかもしれません。
でも良いのです。
ある程度の情報として残しておいて、それにより自分がおかれている状況や状態について冷静に向き合うきっかけになれば。
20年という時間をかけて真剣に病気と向き合って「どうやら疾患と病に分類できるぞ」「人は過去の記憶に生きているようだ」と気づいたことで、私の発信は1人ひとりに伝われば良いと考えるようになりました。
だから多くの人は救えませんし、偶然出会えた人の人生が後退するのではなく、半歩でも一歩でも進んだり、立ち止まってもらえたらそれで良いのです。
たまたま船橋市場に行って話をかけてもらった店主さんが患者さんになったり、社員さんが腰痛に苦しむ社長を連れて来ようとして断ったら10年近い付き合いになったり、たまたま腱鞘炎をが治って家族や親類が来るようになったりと、人生は何がどこでどうなるかは分かりません。
だからこそ東洋医学は形があるものではなくて、つねに変化しているものだから、いま疑問に感じていても分かる時が訪れるし、いつか分からなくなることもあり得るのです。
実際にこれまで不思議な病気に悩む方と出会ってきました。
例えばこれまで不妊症、股関節痛、坐骨神経痛、逆流性食道炎、歯痛、パニック障害、ヒステリー球、顔面神経麻痺、その他にも20年で色々な方と出会いました。
以前、耳鳴りを訴える60代の女性がいました。
耳鳴りは2年前から現れ、後頭部あたりで「シュー、シュー」と鳴るといいます。
パートに集中しているときには音が鳴らないのに、気を抜くと「シュー、シュー」と鳴る。
いったいその音は何なのか。
耳鼻科で紹介された大学病院で検査を受けても原因は不明。
実際、このような形で鍼灸院へ訪れる方は多く、処方された薬がたいてい効かない。藁をもすがる思いで問い合わせの電話をかけるのです。
彼女は夫と娘との三人暮らし。
どこか気を張り詰めたところがありました。
どんなに元気な人でも、それが責任感などの緊張感からきているのか、本来の姿なのかは診てみないとわかりません。
カルテに目を通して幾つか質問をして思うことは、何だか言葉に重みがないという。
それは嘘ということではなく、どこか寂しげで、生気を感じないのです。
けれど話すことでカルテに記載されていなかった娘さんの大病が関係していると見えてきたのです。
改めて思うことは、病気の作因は病気の原因ではないということ。
いくら自分に問題がなくとも、他人の人生と交差することで人は生きていますから様々な影響を受けるのです。
彼女がビタミン剤、血管拡張剤、抗不安薬を服用しても治らない理由は娘さんの健康が自分の責任として重くのしかかっていたからでした。
それを自分で自分を許さぬ限り、そして体の疲れを取らない限りは回復しないのです。
だからこそEBM(根拠に基づく医療)だけではなくNBM(物語と対話に基づく医療)にも目を向けなければなりません。
例えば、ある20代の女性が蕁麻疹で来院した時がありました。
病院で検査をしても原因が見当たらず、薬を飲んでも、薬を塗っても痒みから解放されないいます。
舌を診て、脉をみて、お腹の緊張を読み取りながら、涙を流す彼女に話しかけるのです。
するともしかしたらと思い当たることを話し始めました。
それは幼い頃に離婚して離れ離れだった父親に新しい家庭があって、今後は会えないと伝えられたそうです・・。
その日、彼女は悲しくて苦しくて過呼吸になったといいます。
私が彼女と出会ったころ、高校に行けなくなったことがあると聞いたことがあり、その背景にあるものが何かは定かでありませんでしたが、今日までのことに関係していることは明確になったのでした。
ある日、行徳の蕎麦屋さんで偶然手にとった産経新聞に面白い記事が紹介されていました。
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ここで紹介されていることとして、fMRIが近年普及して脳の詳しい機能解明が進むにつれ、研究が急増。鬱病や依存症、パーキンソン病などの治療を目指す動きが広がってきており、ドイツでは注意欠陥、多動性障害の治療法として公的医療保険が既に適応されているそうです。
そして傷が治っても痛みが続く慢性疼痛の治療に対して、fMRIとAIを併用することで大脳皮質の活動を制御して痛みの信号を調節するという技術を開発したといいます。
このことが重要ではないので要約してしまうのですが、このことは2016年に松本岐子氏が医道の日本に「鍼によるDLPFC賦活治療(1)」として投稿していて、神奈川県立医療センター 中村元昭先生も特別寄稿されていました。
前頭前野と呼ばれる脳領域は前頭葉の中でも前方に位置しており、系統発生上、ヒトにおいて最も進化した脳領域である。個体発生においても、前頭前野は最も遅くに発達を終えるとされており、25歳くらいで発達を完了すると考えられている。 その役割は多岐にわたり、不明な側面も多く残されているが、ヒトに特有な側面との関連性が強い脳領域である。解剖学的には、大きく2つないし3つの領域に分けて考えられている。頭蓋骨に接する背外側前頭前野(DLPFC)と眼球の上方に位置する前頭葉眼窩皮質(OFC)、そして左右両半球が接する前頭前野内側皮質(MPFC)の3領域で、OFCとMPFCを合せて、前頭前野腹内側皮質(VMPFC)と言われることもある。 DLPFCの役割は、主に実行機能と言われる認知機能とトップダウンの抑制機能である。実行機能はいわゆる学業成績などとは区別される知能であり、仕事や作業中に要求される脳機能である。多くの精神疾患において実行機能が低下しており、患者さんのQOL低下につながっている。 DLPFCのもう一つの機能として、トップダウンの抑制機能が重要だと考えられる。脳機能が健全に発揮されるためには、興奮系活動よりもむしろ抑制系活動の方が重要であると考えられている。 神経科学的な詳細は割愛するがDLPFCによる抑制の対象は広範囲にわたり、認知や注意、そして情動もコントロールして、バランスを維持している。さらには全身の臓器と関係する自律神経系や痛みの回路にも抑制をかけていることが知られている。 DLPFCの機能が低下すると、多彩な自律神経症状が惹起されたり、痛みが固定化されたりすることがある。痛みと言っても局所の炎症を伴う組織障害性の痛みではなく、脳内にその起源をもつ慢性疼痛である。 |
慢性的な痛みや疼痛を解消するためにfMRIとAIという高価なものは特別必要ではなく、DLPFC賦活治療で効果を再現できます。
今回、耳鳴り、蕁麻疹に対しての施術にもDLPFC賦活治療をおこないました。
その効果は有益なものであり、記憶と症状との関係が深いことがよくわかります。
医学において根拠に基づくことは重要ですが、視点を変えることによって原因が分からない症状において対話に基づいたものが改めて大切であることが分かった症例でした。
鍼灸は筋肉に対して筋緊張や疲労回復を目的としているだけではなく、このような悩みに対しても有効であることをご理解いただけたのではないでしょうか?
ある人は義父が亡くなった翌日からパニック発作を患いました。
彼の感受性を考えるとそのことは想像できますが、似たようなことが過去に無かったか思い出してもらうと友人や同僚が続けて亡くなったといいます。
次は自分が…。
ということではなく、これらの辛い体験は心身に大きなダメージを与えるものだったのでしょう。
私はこのようなケースを得意としているわけでもありませんし、抱え込むつもりもありません。
ただ、理解をすることはできます。
なぜなら東洋医学は個別性を大切にして、物語に基づいたものだから。
このようなケースはとても多いため、今後も様々な視点からご紹介させていただけたらと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。