一時的に良くなったという感覚
1回目の治療を終えて。
翌週の来院時に変化について質問すると、多くの人が「一時的に良くなったけど戻った」「効果を感じなかった」「分からなかった」と答えます。
この答えを聞くと自分の仕事が変化の見える、分かるものだったら良かったといつも思うのですが鍼灸は本当に分かりにくい。
例えばネイルやヘアカットや料理は五感に訴えるために分かりやすいのですが、鍼灸はどうしても人によって誤差が生じるため難しい。
話は戻りますが「一時的に良くなったけど戻った」「効果を感じなかった」「分からなかった」ということで鍼灸を受けなくなるのは勿体ない話です。
なぜなら鍼灸について誤解が生じているからです。
「鍼灸が効かない」と判断するのはまだ早い?
もちろん鍼灸師の技量は必要です。
しかし実際には患者さんの体の働きが大きく影響します。
その理由は、養老孟司氏のベストセラー『バカの壁』で紹介さてている「アウトプットができないとインプットはできない」という部分に隠れています。
一般的にインプット(入力)があって、インターフェース(境界面)があって、アウトプット(出力)があると認識されているのですが、そのほとんどはインプットが出来ていないのです。
考えてみれば「アラビア語をしゃべれない人はアラビア語を聞いてもわからない」という当たり前のことなのですが、多くの人が「入力さえすれば出力もできる」と考えてしまいます。
例えば、効果という部分をアウトプットとして考えてみると、日ごろからその回路が作られていない、習慣化されていなければインプット、インターフェース、アウトプットは上手くいきません。
けれど動物や子供に鍼をすると効果が早い。
それは情報を処理(理解・整理・加工・再構築)して表現するまでが早いからです。
しかし、大人になると過去の経験に囚われるため入力がスムーズにいきません。
自分の感覚は正しいといえるか
過去に何もない場所や段差でつまずいた事があると思いますが、それも入力と出力の誤差であり、感覚では「このくらい足を上げれば大丈夫」という入力が実際には足が上がっておらず躓いて転倒するという結果を生むのです。
ちなみに、前回「鍼灸師の上手い下手は経験人数と比例する」と紹介しましたが、臨床経験が多いということは情報処理が熟練されているということなのです。
もちろん才能という面での差は生じますよね。
ですから実費鍼灸院は1日の来院数が限られますから、保険を扱う鍼灸院、整骨院の先生の方が沢山診ているという点で上手だと思います。
しかし、これらの治療院は肩こり、腰痛、膝痛といった日常病しか診ませんから難病や大病は診る機会が少ないでしょう。それは日常病に対する情報処理が主だからです。
さて、鍼を受けても効果がなかった理由。
それは刺激(入力情報)が体に必要な刺激として認識できず、反応として出力できていないからです。
また、先ほども述べましたが、加齢などの個体差も影響するだけでなく、遺伝情報といった生まれながらのもの、今日までの怪我や病気、事故、出産、飲酒や喫煙、ストレスなどによる疲労の蓄積も入力の妨げになります。
ですから病気を良くすることを目的にしている場合には、自然治癒力を賦活する必要がありますから回復までに時間が必要です。
最低でも3か月、6か月、9か月、12か月は定期的に受け、症状が重い、自律神経系の症状では週に1回、2回の施術を受けるべきでしょう。
ちなみにセルフケアとして運動、睡眠、栄養、自宅での施灸をおこなえば施術を受ける回数も期間も短くなります。
その入力と出力を繰り返して、自身が持つ自然治癒力を高めれば、身体は強くなるのです。
もちろん続けずに1回だけ受けることも良いでしょう。
ただし、このことが今回のメルマガの目的ですが「東洋医学は自分にとっての健康を最初に決め、自分がどこへ行きたいか、目的地を決める」ということが必要不可欠です。
どう生きたいかを決めることから始める

具体的には、東洋医学を受ける際の主体は治療(医師)ではなく自分自身なのです。
東洋医学は医師に全てを任せて「治す」といった受動的な方法ではありません。
東洋医学は自身が「治る」ために能動的な方法を取る必要があるのです。
「鍼灸を受けて一時的に良くなった」「効果を感じなかった」という感覚には、このような問題が実際には生じています。
そして鍼灸師は「治療」を目的にするのではなく「予防」を目的に施術をおこないます。
鍼灸は治療ではありません。
過去、現在、未来に対して、いまこの瞬間を最大限に導き、清算して、未来に投資するのです。
あなたが西洋医学を受ける感覚で東洋医学を受けるのであればインプットに誤差が生じます。
施術を受ける前には何を目的にしているのか一度考えてみることをお勧めします。